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TDDFTを用いた非断熱電子・原子核量子ダイナミクス計算


東京大学・物性研究所
杉野 修

 電子・原子核系の運動は厳密には非断熱的に起こり、原子核の運動が電子系を励起しそれが原子核の運動にフィードバックする。その効果は電子系に縮退がある時大きく、それが励起状態において特に頻繁に起こる。この非断熱ダイナミクスを第一原理的にシミュレーションすることは、光励起現象等を理解する上で特に重要なステップとなる。
 TDDFTを用いることにより、比較的自由度の多い系でも、反応座標空間上で非断熱係数を求めることが可能になった。非断熱ダイナミクスを計算するためには、断熱ポテンシャル面上での運動がどのように影響を及ぼし合うかを示す量、非断熱結合係数(NAC)が必要になる。多くの場合NACは配置間相互作用(CI)などの波動関数理論の枠組みで計算されてきた。そのため計算量が大きく多自由度系への適用は困難であった。最近、NACが電子密度の動的相関関数を用いて表すことができることを利用して、時間依存密度汎関数理論(TDDFT)の枠内で計算しようとする研究が進んでいる。本講演では、NACのTDDFT計算およびそれを用いた非断熱ダイナミクス・シミュレーションの例について紹介する。
 TDDFTを用いた密度応答理論は、例えばCasida formalismとして分子系の励起エネルギーや振動子強度の計算に広く用いられている。その背景には、交換相関相互作用に対する近似(断熱・局所近似ALDA)に改良が加えられて計算精度が向上してきたこと、計算量が波動関数理論に比べてかなり小さいこと等が挙げられる。NACも原子核の変位に対する電子系の応答であるため同様にCasida formalismで簡便に求めることができる[1]。平面波擬ポテンシャルの枠組みで実装してその計算精度を系統的に調べた結果、次のようなことが分かった[2]。振動子強度の計算は一様電場に対する応答であるため長距離相関力が重要であったのに対し、NACの計算は原子核近傍での摂動に対する応答であるため内殻電子の記述が重要である。その結果、水素原子や一価の元素に対しては良好であるが、その他の元素に対しては擬ポテンシャルに由来する精度の劣化が一般に見られる。
 水素原子の非断熱的運動が重要となる系としてfolmaldimine分子(CH2NH)の光異性化反応(syn-anti)を選び、量子波束ダイナミクスと半古典surface hoppingのシミュレーションを行った。この分子はNACの値が非等方的に分布していることに由来して、非断熱遷移および異性化確率に熱浴の影響が強くかかわる系であることなどが分かった。
ホルムアルジミンの断熱ポテンシャル面と非断熱交差

[1] C. Hu, H. Hirai, and O. Sugino, JCP 127, 064103 (2007).
[2] C. Hu, H. Hirai, and O. Sugino, JCP 128, 154111 (2008).



*出典:ナノ統合第3回公開シンポジウム要旨集より。
 掲載に際しては杉野修准教授のご了承を得ています。



杉野研究室ホームページへのリンク: http://sugino.issp.u-tokyo.ac.jp/public/

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