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拡散伝導からバリスティック伝導までの量子伝導計算


小林伸彦(筑波大)、石井宏幸(筑波大)、広瀬賢二(NEC)


 ナノスケールデバイスの開発が進んでいる現在、量子論に基づく量子輸送特性理論シミュレーションは応用上非常に重要である。一般に、電気伝導特性はシステムサイズの変化によって拡散伝導・準バリスティック伝導・バリスティック伝導へと移り変わるが、その機構の変化の解明はナノデバイス開発応用への指針を与えることに留まらず、ナノサイエンスの基礎的問題としても意義が大きい。本研究では、これまで独自に開発してきた理論シミュレーション手法を用いて、拡散伝導からバリスティック伝導に至る量子伝導特性を統一的手法によって解析し、フォノン効果、不純物効果、平均自由行程、移動度、及びその温度依存性などを明らかにする。特に、実験条件に対応するナノメートルからマイクロメートルの様々なチャネル長を持つカーボンナノチューブの量子伝導特性の解析例を示す。そこで、電気伝導特性の実験結果との比較・検討を行うことにより、本研究で用いる量子伝導計算手法の有効性を実証した。
  図1は本計算により求めたフォノンとそのフォノン散乱効果を取り入れた計算によるカーボンナノチューブの抵抗の長さ依存性である。この計算結果は、数ミクロンのチャネル長に渡って、抵抗値とその長さ依存性の振る舞いの実験データを非常に良く再現している。
図1:(a)バリスティック伝導と拡散伝導。(b)(10,10)CNTのフォノン分散関係。(c)CNTの抵抗の長さ依存性。


 ナノチューブの長さがミクロン長になると、長さに比例した抵抗領域(拡散領域:オームの法則)が現れる。一方、長さが短くなると抵抗はゼロにはならず量子伝導に特有なチャネル数に応じた抵抗値に近づく(バリスティック領域)。この古典的領域から量子的領域までの電気伝導特性を、その中間の準バリスティック領域を含んで統一的に計算で求め、実験と比較することが可能となった。
 拡散領域からバリスティック領域への変遷は各漸近線の交点の平均自由行程で特徴付けられる。(5,5)カーボンナノチューブでは室温300Kで約500ナノメートルとなった。現在のシリコンデバイスの実験ではバリスティック領域への変遷は10〜20ナノメートルで起こることが予測されている。一桁大きい平均自由行程は量子伝導系としてのカーボンナノチューブの特徴を表している。
 平均自由行程の温度依存性も実験結果と定量的に非常に良く一致する。図2に(5,5)ナノチューブの抵抗と平均自由行程の温度依存性を示す。平均自由行程は温度の低下とともに逆比例して大きくなり、10Kで数ミクロン長に達することが分かった。また不純物散乱効果についても調べ、温度依存性の振る舞いが実験結果を再現することを確かめた。これらの計算結果と実験結果との比較・検討から本計算手法の有効性を実証した。
図2:(5,5)CNTの平均自由行程とその温度・不純物依存性。

【参考文献】
[1]H. Ishii, N. Kobayashi, K. Hirose, Phys. Rev. B 82 085435 (2010)
[2]H. Ishii, S. Roche, N. Kobayashi, K. Hirose, Phys. Rev. Lett. 104 116801 (2010)



*出典:2010年度報告書より。
 掲載に際しては小林伸彦准教授のご了承を得ています。



小林研究室ホームページへのリンク:http://www.bk.tsukuba.ac.jp/~cmslab/index.html/

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