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大きな溶質の生体高分子複合体への挿入およびそれからの放出


(京大エネルギー理工)○木下正弘,天野健一


1.はじめに
生体高分子から成る容器内への大きな溶質分子の挿入およびそれからの放出は,生体系における基本プロセスの一つである。例えば,(1)変性した蛋白質はシャペロニン内に挿入され,折り畳みを終えた後,再度水溶液中に戻される。(2)細胞内の毒性分子はトランスポーター内に挿入され,その後,細胞外に放出される。挿入と放出という正反対のプロセスが同じシステムで引き続いて起るメカニズムは依然として謎に包まれている。本研究では,特に(1)を取り上げ,そのメカニズムが単純な物理で理解できることを示す。 Fig.1


2.モデルと理論
3次元積分方程式論[1]を用いて,Fig. 1に示すような筒状の容器と大球(小球集団の中に浸されている)の間の平均力のポテンシャルPMFおよびそのエントロピー成分・エネルギー成分の空間分布を計算する。図中の数値は,小球の直径で規格化されている。大球が大きな溶質分子,小球集団が溶媒に該当する。溶媒分子間,溶媒分子−溶質表面間および溶媒分子−容器表面間に引力相互作用を導入する。溶質の大きさ(排除容積)と溶媒分子−溶質表面間引力相互作用の強さ(疎溶媒性or親溶媒性)を変化させてその影響を調べる。


3.結果および考察
Fig.2PMFのエントロピー成分は常に溶質を容器内に挿入し,容器内のほぼ中央に拘束しようとする。これは,溶媒分子の並進移動に起因するエントロピー効果による[2]。この効果は,溶質が生成する排除容積が大きいほど強くなる。一方,エネルギー成分は,溶質の疎溶媒性が高い場合は溶質を容器内に挿入し,親溶媒性が高い場合には逆に容器外へ放出しようとする。親溶媒性が高い溶質は,拘束空間内よりもバルク中で溶媒和される方が安定なためである。Fig. 2に示すように,疎溶媒性が高い大きな溶質が容器内に挿入された後,溶質の排除容積が減少し(エントロピー効果による挿入力を弱め),表面が親溶媒性に変化する(エネルギー効果による十分強い放出力が生じる)と,溶質は容器外に放出される。変性した蛋白質と折り畳みを終えた蛋白質を比べると,後者の方が排除容積はずっと小さく,表面の親水性が高い。以上のことから,シャペロニンにおける挿入/放出過程の基本的な物理が理解できる。



4.おわりに
シャペロニンは,ナノメータースケールの空間内の水和特性を巧みに利用して機能する。次は,トランスポーターにおける挿入/放出過程と取り組みたい。この場合には,挿入時と放出時におけるトランスポーターの立体構造の違いおよび両立体構造間の連続的な変化が重要な役割を果たすものと考えられる。



【参考文献】
[1] M. Kinoshita, J. Chem. Phys. 116, 3493 (2002).
[2] K. Amano and M. Kinoshita, Chem. Phys. Lett. 488, 1 (2010); 504, 221 (2011).



*出典:ナノ統合第5回公開シンポジウム要旨集より。
 掲載に際しては木下正弘教授のご了承を得ています。



木下研究室ホームページへのリンク:
http://www.iae.kyoto-u.ac.jp/centerbunya/kinoshita/

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