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パラジウム錯体により促進される芳香族化合物の
直接クロスカップリング反応に関する理論的研究1



(京大院・工)石川敦之、中尾嘉秀、佐藤啓文、(京大ICeMS)○榊茂好


1.緒言
 有機化学においてC-C結合の形成は精力的に研究が行われており、クロスカップリング反応の発展によりC-C結合生成に関する化学は飛躍的に進歩した。 しかしながら、クロスカップリング反応では有機ハロゲン化合物などが反応前駆体として必要になる場合が多く、反応効率および環境への配慮などの観点からは望ましくない。 したがって、始源系のC-H結合から直接C-C結合を生成する反応が望ましい。 そのような直接クロスカップリング反応の例として、以下の式(1)に示される反応が近年Sanfordらによって報告された1。 この反応は系中にベンゾキノンが存在するときにのみ進行するが、その役割は明らかではない。 本研究では、式(1)の反応メカニズム、ベンゾキノンの役割等を明らかにすることを目的とし、電子状態理論により検討を行った2


式(1)

2.計算
 基底関数には、二種類の基底関数系(BS-I、BS-II)を用いた。 BS-Iでは、典型元素に6-31G(d)を、Pd原子にはLos Alamos ECPと(341/321/31)基底関数を用いた。 BS-IIでは、典型元素にcc-pVDZを、Pd原子にはStuttgart-Dresden-Bonn ECPと(8881/7771/661/1)基底関数を用いた。 構造最適化にはDFT法(B3PW91汎関数)を用い、エネルギー評価にはDFT法、MP2-4(SDQ)法、CCSD(T)法を用いた。


3.結果・考察
 式(1)は、(i)ベンゾキノリンのC-H結合活性化反応、(ii)ベンゾキノンの配位、(iii)ベンゼンのC-H結合活性化反応、の反応過程からなる。 ベンゾキノリンのC-H結合活性化反応はヘテロリティックな反応メカニズムで進行し、反応終了後はPd中心が求核的になっていることが電子密度解析から明らかとなった。 このことは、次の過程であるベンゾキノンの配位にとって有利であり、その活性化障壁が小さい(6.7 kcal/mol、 MP4(SDQ)/BS-II)ことを説明するものである。 次の反応過程である、ベンゼンのC-H結合活性化反応は酸化付加と還元脱離を経由するが、そのうち還元脱離の活性障壁が非常に小さい(1.1 kcal/mol)ことが示された。 これは、ベンゾキノンの配位により(a)還元脱離により結合するC-C間の距離が短くなること、(b)Pd中心が求電子的となるため還元脱離にとって有利になること、が主な原因になっているものと考えられる。
 さらに、ベンゾキノンの存在しない条件での反応を検討したところ、還元脱離の活性障壁が増大し(35.9 kcal/mol)、室温では反応が容易に進行しないことが示された。 以上の結果から、反応(1)はベンゾキノンが主に還元脱離の過程を促進することにより反応が進行することが明らかとなった。



【参考文献】
[1] K. K. Hull and M. S. Sanford, J. Am. Chem. Soc. 2007, 129, 11904.
[2] A. Ishikawa, Y. Nakao, H. Sato, S. Sakaki Dalton Trans., 2010, 39, 3279.



*出典:ナノ統合第5回公開シンポジウム要旨集より。
 掲載に際しては榊茂好教授のご了承を得ています。



榊研究室ホームページへのリンク:
http://www.users.iimc.kyoto-u.ac.jp/~z59354/

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