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二次元有機導体における電荷秩序の光誘起ダイナミクス


(分子研1、総研大2、JST-CREST3、東北大金研4)
○田中康寛1;2;3、宮下哲1;4、米満賢治1;2;3

 近年、強相関電子系における光誘起巨大応答やスイッチング素子に関する研究が盛んに行われており、光による絶縁体金属転移のメカニズムを解明する必要性が高まっている。 その対象物質として興味を集めているのが二次元有機導体θ-(BEDT-TTF)2RbZn(SCN)4(θ-RbZn) とα-(BEDT-TTF)2I3(α-I3) である。 これらは伝導を担うBEDT-TTF 分子が異方的三角格子上に並んだ構造を持ち、高温では金属である。 そして、いずれも低温では結晶構造の歪みを伴って水平ストライプ型電荷秩序と呼ばれる電荷の局在化を起こし、絶縁体となる。 しかし、この絶縁体を光照射したときの金属化の挙動が大きく異なることが実験で報告された[1]。 具体的には、θ-RbZn では光誘起された金属ドメインが小さく、超高速に電荷秩序へと戻るのに対し、α-I3 ではそれが巨視的サイズとなって持続する振舞いを示す。 また、光の強度や温度依存性に関しても異なった振舞いが観測されている。 この違いの起源を理論的に探ることは、光による絶縁体金属転移のメカニズムを知る上で非常に重要である。 我々は、この系での電子ダイナミクスを調べるため、電荷秩序を記述する拡張ハバード模型に構造歪みの効果と光照射の効果を取り入れ、厳密対角化法[2] あるいはハートリーフォック近似[3] により、時間依存シュレディンガー方程式を数値的に解いて時間発展を求めた。
 θ-RbZn は金属相で結晶構造の対称性が高いため、異なるパターンの電荷秩序がエネルギー的に拮抗している。 低温で生じる水平ストライプ型電荷秩序は、分子回転による構造変化で強く安定化されるため、融解するには大きなエネルギーが必要である[図1(a)]。 一方、α-I3 は金属相で結晶の対称性が低く、すでに電荷の不均化が起きているので、電荷秩序の歪みによる安定化が小さく、融解に要するエネルギーも小さい[図1(b)]。 また、局所的な光照射を想定した計算により、光で生じるドメインの成長が、α-I3 では面内で等方的なのに対し、θ-RbZn では電荷ストライプと平行な方向に限られ、垂直方向には広がりにくいことが分かった(図2)。 これらの結果は、θ-RbZn とα-I3 での光誘起ダイナミクスが、結晶構造の持つ対称性と、電荷秩序形成における構造歪みの役割の違いによって特徴づけられることを示しており、実験結果とも符合している。
図1
図1:光照射後に時間平均して得た電荷密度((a)θ-RbZn、(b)α-I3) を、吸収エネルギーの関数としてプロットしたもの。A、B 等はユニットセル内の4つの独立な分子のラベル。ΔEc は電荷秩序の融解に必要なエネルギーを表す。挿入図は構造歪みの大きさの時間平均を表し、電荷秩序の融解とともにゼロになることが分かる。


図2

図2: 12 × 12 の系に局所的な光照射をした後の電荷密度の時間発展(左: θ-RbZn、右:α-I3)。四角は分子を表し、白で示したのがひとつの電荷ストライプ。図は(7,7)、(7,8)、(8,7)、(8,8) のサイトのみに光照射した場合の結果で、t = 0 からの電荷密度の変化を色で示している(t = 150 が約100fs に対応)。


【参考文献】
[1] S. Iwai et al, Phys. Rev. Lett. 98 (2007) 097402.
[2] S. Miyashita, Y. Tanaka, S. Iwai, and K. Yonemitsu, J. Phys. Soc. Jpn. 79 (2010) 034708.
[3] Y. Tanaka and K. Yonemitsu, J. Phys. Soc. Jpn. 79 (2010) 024712.



*出典:ナノ統合
第4回公開シンポジウム要旨集より。
 掲載に際しては田中康寛助教、米満賢治准教授のご了承を得ています。



米満研究室ホームページへのリンク: http://magellan.ims.ac.jp/

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