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タンパク質系の力場OPLS-UAの最適化


(名大院理)榮 慶丈、岡本 祐幸


1.はじめに
 タンパク質分子の機能や性質を理解するための手法の一つとして,計算機による分子シミュレーションがおこなわれている。その手法には古典力学を基にした分子モデルと量子力学を基にした分子モデルによるものがあり,比較的巨大な分子であるタンパク質は,計算コストが低い古典力学を基にした分子モデルがよく用いられる。この分子モデルを用いた場合,シミュレーションに用いるエネルギー関数として,分子中の原子の中心座標と力場パラメータと呼ばれる,ある決められた複数の定数を必要とする。この力場パラメータは,通常小分子の量子化学計算や実験データを基に決められており,これまでに様々な種類の力場パラメータがいくつかの研究グループにより提案されている。広く用いられている代表的な力場パラメータとして,AMBER,CHARMM,OPLS,GROMOS,ECEPPなどがある。
 近年,いくつかの代表的な力場パラメータに対し,拡張アンサンブルシミュレーションによる詳細な二次構造形成の傾向についての比較がおこなわれた。この結果,力場パラメータの種類によって二次構造の形成に関して明らかに異なる傾向をもつことが明らかとなった[1]。


2.PDBを利用した力場最適化
 我々は二次構造形成の傾向に深く関与する力場パラメータとして,主鎖の二面角であるφとψに注目し,OPLS-UA力場の最適化を試みた[2,3]。これは様々な折りたたみ構造をもつ複数のタンパク質に対し,実験で得られた構造のときにエネルギーがより安定になるように最適化する方法である。用意するタンパク質の立体構造はSCOPデータベースより分類されたall α,all β,α/β,α+βなどのフォールドごとに登録された構造数の割合に従って得たPDBからの100個の構造とした。本研究ではこのデータセットに対し2種類の評価関数を用いた。一つは,PDBから得られたタンパク質の立体構造を構成するすべての原子について各々の原子にかかる力の大きさの和を評価関数としたものであり,これを力場パラメータ空間上で最小化することで最適化した。もう一つは複数のPDBから得られた構造とこれを初期構造としてエネルギー極小化をして得られた立体構造間のRMSDの和を評価関数としたもので,これについても力場パラメータ空間上で最小化することで最適化をおこなった。


3.最適化した力場によるテストシミュレーション
 我々は最適化した力場とオリジナルのOPLS-UA力場を用いて,αへリックス構造をもつことで知られるCペプチドとβヘアピン構造をもつことで知られるGペプチドの2種類のペプチドに対し,レプリカ交換分子動力学法による折り畳みシミュレーションをおこなった。その結果(以下の図1〜図3参照)、元の力場よりも、最適化された力場の方が、二次構造形成の傾向が実験に近い傾向を示すことが明らかとなった。


図1.2種類のペプチドの折り畳みシミュレーションにおける2次構造形成傾向性。
(a) 及び(b)はCペプチド,(c)及び(d)はGペプチドのそれぞれHelicityおよびStrandnessを示す。また実線は最適化した力場,破線はオリジナルのOPLS-UA力場である。
図1.2種類のペプチドの折り畳みシミュレーションにおける2次構造形成傾向性。 (a) 及び(b)はCペプチド,(c)及び(d)はGペプチドのそれぞれHelicityおよびStrandnessを示す。また実線は最適化した力場,破線はオリジナルのOPLS-UA力場である。




図2.オリジナルのOPLS-UA力場(a)及び最適化した力場(b)を用いたCペプチドの折り畳みシミュレーションの結果得られたエネルギーの低い構造。最も低いエネルギーをもつ構造から順に20構造を示してある。
図2.オリジナルのOPLS-UA力場(a)及び最適化した力場(b)を用いたCペプチドの折り畳みシミュレーションの結果得られたエネルギーの低い構造。最も低いエネルギーをもつ構造から順に20構造を示してある。




図3.オリジナルのOPLS-UA力場(a)及び最適化した力場(b)を用いたGペプチドの折り畳みシミュレーションの結果得られたエネルギーの低い構造。最も低いエネルギーをもつ構造から順に20構造を示してある。
図3.オリジナルのOPLS-UA力場(a)及び最適化した力場(b)を用いたGペプチドの折り畳みシミュレーションの結果得られたエネルギーの低い構造。最も低いエネルギーをもつ構造から順に20構造を示してある。



【参考文献】
[1] T. Yoda, Y. Sugita, and Y. Okamoto, Chem. Phys. Lett. 386 (2004) pp. 460-467.
[2] Y. Sakae and Y. Okamoto, Chem. Phys. Lett. 382 (2003) pp. 626-636
[3] Y. Sakae and Y. Okamoto, Mol. Sim. 36 (2010), in press.


*出典:ナノ統合第4回公開シンポジウム要旨集より。
 掲載に際しては岡本祐幸教授のご了承を得ています。



岡本研究室ホームページへのリンク: http://jegog.phys.nagoya-u.ac.jp/tb/

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