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多変数シミュレーティッド・テンパリング法の開発


(慶應義塾大学 理工)光武 亜代理、(名古屋大学 理)岡本 祐幸

 生体高分子系のような複雑系のシミュレーションにおいて、系には多数のエネルギー極小状態が存在する。通常の常温のシミュレーションにおいても、これらのエネルギー極小状態に系が留まり、効率の良いサンプリングを行うことは難しい。これまで、エネルギー極小状態に系が留まるのを避ける強力なサンプリング法の1つである拡張アンサンブル法の開発を行ってきた。良く知られている拡張アンサンブル法として、マルチカノニカル法、シミュレーティッド・テンパリング法(焼き戻し法)、レプリカ交換法などが知られている。マルチカノニカル法はポテンシャルエネルギー空間上のランダムウォークを実現し、レプリカ交換法とシミュレーティッド・テンパリング法は温度空間上のランダムウォークを実現することにより、系がエネルギー極小状態に留まるのを避ける。


 生体高分子系のシミュレーションでは、系が大きいため、慣性半径や末端間距離を制限するためにバイアスポテンシャルを加えて、シミュレーションを行うことがある。この場合、上記と同様、バイアスポテンシャルの極小状態に系が留まり、状態を効率良くサンプルすることが難しくなる。これを避けるには、バイアスポテンシャル上でランダムウォークを実現すればよい。ポテンシャルエネルギーとバイアスポテンシャルなど、多変数でのランダムウォークを実現することにより、系の重要な領域をより効率良くサンプリングすることができる。


 最近、多変数での拡張アンサンブル法の定式化を行なった[1,2]。ここでは、特に多変数シミュレーティッド・テンパリング法(多変数焼き戻し法)[1,2]について説明する。また、最近開発した多変数でのシミュレーティッド・テンパリングレプリカ交換法[3]についても述べる。特に、例として、モデル溶媒中のヘリカルペプチド系を用いたシミュレーションを行なったので、この結果について述べる。この際、2次元レプリカ交換シミュレーションと2次元シミュレーティッド・テンパリングレプリカ交換シミュレーションを行なった。全ポテンシャルエネルギーをEp+λEsolとした。ここで、Epは蛋白質のポテンシャルエネルギーでEsolは溶媒和自由エネルギーである。また、Esolは原子の露出表面積に溶媒和自由エネルギーが比例するというモデルを用いて求めた。λが0のときは、真空中に対応し、λが1の時は、水溶液中に対応する。すなわち、1つのシミュレーション中において、系を真空中においたり、溶媒中においたりする訳である。温度を低温から高温までで8つ、λを0から1までで4つ用意し、温度とλ空間上のランダムウォークを引き起こすことを試みた。2次元シミュレーティド・テンパリングシミュレーションとシミュレーティッド・テンパリングレプリカ交換シミュレーションで用いる重み因子は、2次元レプリカ交換法[4](ハミルトニアンレプリカ交換法とも呼ばれる)とmultiple histogram reweighting techniquesを用いて決定した。2次元レプリカ交換シミュレーションと、2次元シミュレーティッド・テンパリングシミュレーションにより温度とλ空間上のラムダムウォークを実現することができた。また、2次元シミュレーティッド・テンパリングレプリカ交換シミュレーション[3]も実現できた。図1には、温度パラメターと溶媒パラメターがランダムウォークしている様子を示す。図2には、このシミュレーションで得られた諸々の平均値を温度の関数として示す。


 ここでは、1つの例を示したが、この手法はさまざまなシミュレーションに適用できると考えられる。また、これらの方法は、使用するレプリカの数が違うので、計算機の環境によって手法の選択ができる。


図1.2次元焼き戻しシミュレーション中の温度と溶媒パラメターの経時変化。
図1.2次元焼き戻しシミュレーション中の温度と溶媒パラメターの経時変化。


図2.2次元焼き戻しシミュレーションで得られた温度の関数としての全エネルギー(a)、溶質の構造エネルギー(b)、λ溶媒和自由エネルギー(c)、末端間距離(d)の平均値。
曲線の色は、赤、緑、青、紫が、それぞれ、λ= 0, 1/3, 2/3, 1  に対応する。
図2.2次元焼き戻しシミュレーションで得られた温度の関数としての全エネルギー(a)、
    溶質の構造エネルギー(b)、λ溶媒和自由エネルギー(c)、末端間距離(d)の平均値。
    曲線の色は、赤、緑、青、紫が、それぞれ、λ= 0, 1/3, 2/3, 1 に対応する。


【参考文献】
[1] A. Mitsutake and Y. Okamoto, Phys. Rev. E 79 (2009) 047701.
[2] A. Mitsutake and Y. Okamoto, J. Chem. Phys. 130 (2009) 214105.
[3] A. Mitsutake, J. Chem. Phys. 131 (2009) 094105.
[4] Y. Sugita, A. Kitao, and Y. Okamoto, J. Chem. Phys. 113 (2000) 6042.


*出典:ナノ統合第4回公開シンポジウム要旨集より。
 掲載に際しては岡本祐幸教授のご了承を得ています。



岡本研究室ホームページへのリンク: http://jegog.phys.nagoya-u.ac.jp/tb/

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