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並列RI-MP2法による大規模MP2計算


(分子研)○河東田 道夫、永瀬 茂


【序】2次のMøller-Plesset摂動(MP2)法は超分子、ゲスト-ホスト相互作用、分子認識、自己集合、生理活性などでは本質的な役割を果たす非共有結合相互作用を低い計算コストで取り扱うことのできる量子化学計算手法である。これまでに、我々はMP2エネルギーとエネルギー微分の高速・高並列計算アルゴリズムとプログラムを開発してきた[1-2]。しかしながら、MP2の従来法は分子が大きくなると計算コストおよび必要なメモリ量とディスク量が急激に増大してしまい、適用できる分子のサイズに限界がある。そこで、本グループでは従来法では計算困難な大規模分子系のMP2計算を並列計算機環境を有効活用して現実的な計算時間で実行することを目的として、RI-MP2法[3]の並列計算アルゴリズムおよびプログラムの開発を行った[4]。本稿では並列RI-MP2法の並列性能テスト結果および大規模分子系への適用例を紹介する。


【方法】RI-MP2法はMP2計算に必要な電子反発積分をresolution-of-identity(RI)近似することにより計算コストを従来法と比べて大きく減少させる方法である。RI-MP2法では二電子積分はRI近似より(1)式を用いて求めることができる。

従来法では二電子積分変換を行う際にO(N4)の膨大な量の二電子積分をディスクに保存する必要があるが、RI-MP2法ではO(N3)の二電子積分((2)式)を保存すればよいので、計算に必要なディスク容量も大幅に抑えられる。RI-MP2エネルギー計算では(1)式の二電子積分の生成過程がO(N5)の計算量を要し、計算上のボトルネックになる。そこで、計算の高速、高並列化のために、特に(1)式の計算過程について効率的な負荷分散とI/O処理が可能となるように並列アルゴリズムを設計した。さらに本並列アルゴリムを非経験的量子化学計算プログラムGAMESS[5]に実装した。


【並列RI-MP2法の性能評価】バリノマイシン分子(C54H90N6O18)(図1)に対して基底関数に6-31G*および6-311G**、補助基底関数にAhlrichsのSVPを用いて並列計算の性能評価を行った(6-31G*: 1350基底、6-311G**: 2022基底、5640補助基底、222 相関軌道)。使用した計算機はメモリ4 GBとHDD 400 GBを搭載したPentium4 3.2 GHzクラスタで、各計算機はギガビットイーサネットで結ばれている。表1にRI-MP2エネルギーの計算時間と並列加速度の計算機台数依存性を示す。並列加速度はノード数の増加に対してスーパーリニアとなり、特に基底関数に6-311G**を用いた場合では、計算機32台使用で34.8倍の加速と非常によい並列性能を示した。また、CPU利用率はノード数が増えるにつれて高くなり、これがスーパーリニアの加速の理由となっている。また計算時間も6-311G**を用いた場合でも、計算機32台使用で94分で終了し、2000基底程度のMP2エネルギー計算をルーチンワークとして行うことが可能である。
図1. バリノマイシン分子(C54H90N6O18)の構造
表1. バリノマイシンの RI-MP2エネルギー並列計算の計算時間、並列加速度、CPU利用率


【RI-MP2法の大規模分子系への応用:ナノグラフェン2量体のMP2計算】RI-MP2法の大規模分子系への応用として、開発したプログラムを用いてナノグラフェン2量体(C96H24)2(図2)の計算を行った。基底関数には6-311G**、補助基底関数にはAhlrichsのSVPを用いた(3932基底、11280補助基底、408相関軌道)。使用した計算機は、メモリ4 GBとHDD 400 GBを搭載したPentium4 3.2 GHzを32台用いたクラスタで、各計算機はギガビットイーサネットで結ばれている。RI-MP2計算は42.9時間で終了し、現実的な計算時間で実行可能なことが確認された。また、必要な計算機資源についても、従来法ではこれまでに我々で開発したMP2の従来法を用いた場合でも、メモリ使用量は各ノード当り14.6GB、ディスク使用量は全ノードで7.9TB必要なのに対し、RI-MP2法ではメモリ使用量は各ノード当り2.3GB、ディスク使用量は全ノードで228.1GBとなり、4000基底程度のRI-MP2エネルギー計算が標準的なPCクラスタを用いて十分可能である。
図2. ナノグラフェン2量体(C96H24)2の構造


【結論】並列RI-MP2法を用いることによりPCクラスタ等の低コストな並列計算機資源やスーパーコンピューターを有効活用し、大規模系のMP2エネルギー計算を高速に実行することが可能となり、ナノサイズ分子系での興味深い現象の理論計算による解明への応用が期待される。


【参考文献】
[1] K. Ishimura, P. Pulay, and S. Nagase, J. Comput. Chem. 27, 407 (2006).
[2] K. Ishimura, P. Pulay, and S. Nagase, J. Comput. Chem. 28, 2034 (2007).
[3] M. Feyereisen, G. Fitzgerald, and A. Komornicki, Chem. Phys. Lett. 208, 359 (1993).
[4] M. Katouda and S. Nagase, Int. J. Quant. Chem. 109, 2121 (2009).
[5] M.W. Schmidt et al., J. Comput. Chem. 14, 1347 (1993).


*出典:ナノ統合第3回公開シンポジウム要旨集より。
 掲載に際しては永瀬茂教授のご了承を得ています。



永瀬研究室ホームページへのリンク: http://snl.ims.ac.jp/

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